裏ページ ポチものがたり

17.ポチタロ3〜give&take

病院実習は、いろんな病棟をまわることになります。

一つの病棟で、何週間か行うのですが、その間に、2日休むと補習の対象になってしまうのですが、1日だけの欠席だと、そういうことにはならないんですよね。

で、こういうことには、タローは、目ざといところがありました・・・。^^;


その病棟での実習が、中盤を過ぎた頃、しかも、天気がよい日。
それは、タローにとっての「海の日」でした・・・。

そんなときには、タローの受け持ち患者さんは、当然、学生が担当していない患者さんと同じことになります。

まあ、そんなに、援助を必要としていない日では、あったんですけれどね、タローが休む日は・・・。
(こういうところも、タローらしい気が・・・。^^;)


学生の行う援助というのは、技術や計画の未熟さはあるのですが、結構、患者さんの中には、いろいろと話しをしたりもできるので、楽しみにしてくださる方もいるんですよね。

だから、担当の学生が休んでしまった患者さんというのは、寂しそうというか、なんだか、物足りないという様子でいることが多いものでした。

そういう場合、
自分の実習もあるので、ずっと、というわけには、いかないのですが、時間を見つけては、タローが受け持っている患者さんの所にもこまめに行くようにしていました。

つまり、一つの病棟につき、一回は、こういう忙しい日が、あるというのが定番になっていました・・・。^^;



で、これだけだと、一方的なポチの側からのgiveということになってしまうのですが、・・・。

実習が、終わりに近付いた頃になると、タローが必ずしてくる質問があったんですよね。

「そろそろ、何かやるんでしょ?」


これは、「大がかりな援助をする場合には、手伝いますよ」という意味なんですよね。

ポチの答えは、
「××日の午後に、1時間くらい、いいかな?」
という感じでした・・・。(そっけない・・・。^^;)

まあ、細かい打ち合わせは、焼き鳥屋で、やることにしていましたので・・・。




年末の、冬休みを目前にした頃、ポチは入浴介助を計画していました。

入浴介助というのは、それほど、珍しいものではないのですが、
そのときの受け持ち患者さんは、
9月に、脳梗塞で、入院して、一時危篤状態になり、ICUに何日間もいたこともあった方でした。


受け持ったときには、症状は安定していて、リハビリが中心になっていたのですが、

・麻痺が強く、介助がかなり必要なこと。
・体が大きく、介助そのものが、かなり大変。
・病棟にある浴槽が、自力入浴が可能な人を対象に作ってあり、介助しにくい。

ということもあり、入院以来、一度も、シャワー浴も含めて、入浴は行われていませんでした。

念のため、主治医に確認すると、
「入浴そのものは、禁止していないので、バイタル(血圧等)を前後に測定して、特に問題がなければ、かまわないですよ」
という返事でした。


患者さんの奥さんに、入院前のことを聞いてみると、
「お風呂好きで、毎日必ず入っていました。」
ということも、わかりました。

本人に、入浴のことを持ちかけると、
「でも、無理だろ。」
という返事。

弱みを見せたがらない、明治男なんですよね・・・。^^;
ただ、「でも」というところに、本音が隠れているようにも思いました。

ポ:「入浴そのものが、嫌だということではないですよね?」
患:「ああ。」

これで、交渉成立(?)です。^^;




あとは、どう入浴介助するのかという計画をたてる、という問題が残っていましたが、
教科書・参考書に書いてあるような方法じゃ、入れられないなあ、と思っていました。

ここをクリアしないと、患者さんにも迷惑がかかるし、指導者のOKも出ないんですよね。


タローにも手伝ってもらえば、男2人の力なら、なんとかなるかなという気持ちが、最初あったのですが、

浴槽に入れるまでは、それでもいいとしても、浴槽から出るときと浴槽内での安定性というところに、不安を感じていました。

手すりでも付いていれば、と考えてみたところで、今さら、どうにもならないし・・・。



ある方法の範囲内で考えて、行き詰まったときには、違う発想法。

そう思うと、
ずっと、浴槽の外からだけ介助することを考えていたことに気付きました。

浴槽の内と外から介助するとしたら・・・。

根拠は、ないのですが、うまくいきそうな予感がしました。

あとは、頭の中で、いろいろとシュミレーションして、計画をたてました。
入浴介助の一般的な留意点などは、文献から拾いましたが・・・。




指導者に、
「入浴を考えているんですけれど・・・。」
と話したところ、
「どうやって、入れるつもりなの?」
という予想通りの疑問が返ってきました。

水着を持ってきて、自分は浴槽の内側から、タローが浴槽の外側から介助する。
そう話すと、なるほど、という雰囲気になってきたので、
ここで、ダメ押しの言葉を・・・。

「年を越す前に、お風呂に入れてあげたいんです。」

この指導者は、計画が甘かったりすると、徹底的に追求してくるところがあって、
泣かされた学生も数知れず、という人だったんですが・・・。

一方で、患者さんのために、という気持ちが表れているような場合には、
結構、フォローをいれてくれて、未熟な計画を練り上げていくのに、ヒントをくれるようなところも持っていました。

で、
「わかりました。きちんと計画をたてて、持って来て下さい。」
ということになりました。




当日の朝。
学生は、申し送りが終わったあとに、病棟スタッフの前で、
その日の計画を簡単に説明(宣言?)しなくては、ならないことになっています。

「××さんの入浴介助をします。」
と言ったところ、
スタッフが、ざわざわしだしました。

大丈夫なの?とか、どうやってやるの?という雰囲気が漂っていました・・・。^^;

そのとき、指導者が、
「学生さんは、今日は、水着持参です。」
とフォローしてくれたんですよね。

スタッフも、指導者が後押ししているということを感じたんでしょうね、静かになりました。

この指導者は、只者じゃないという思いが、強くなった瞬間でもありました・・・。



そのあと、学生と指導者とで、ミニカンファレンスということになります。

恐る恐る、穴だらけの計画を見せると、
「これで、大丈夫でしょう。でも、やるときには、私を呼んでください」
ということになりました。

指導者に見られての援助となると、緊張感が増してきて、本来なら、敬遠したいところなのですが、そのときには、ぶっつけ本番的な計画だから、まずいところは、その場その場で、フォローしてくれるつもりなんだなというのが、わかって、心強く思いました。



実際の入浴介助は、やはり、そんなにスムーズにはいかなかったのですが、適宜、指導者の助けもあって、なんとか、無事に終えることが、できました。
タローも、実習着を濡らしながらも、手伝ってくれました。




そのあと、患者さんの車椅子を押して、病棟内の散歩。

ある場所で、停めて、窓の外を眺めていました。患者さんと二人で。

しばらく、無言のままで、その状態が続いたのですが、
「風邪ひかなかったか」
という思いがけない言葉が、患者さんから・・・。

そして、
「ありがとう」

口数の少ない、頑固な明治男の言葉・・・。

このときのことは、今でも、鮮明に覚えています。




その日の実習が、終わったあと、当然のごとく、焼き鳥屋に直行しました。

やり遂げたという気持ちと、タローへの感謝ということですが、
もちろん、おごったりは、しなかったですけれどね・・・。^^;

giveだけでもないし、takeだけでもない。
それが、ポチとタローの暗黙の了解でしたから・・・。(^^ゞ


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