2.看護婦・看護士への基礎講座 (5)欠格事由
2001.4加筆・修正


ここでは、
・現行の法律による欠格事由(欠格条項と呼ぶ場合もあります)について
・現在進められている欠格事由の見直しについて
それぞれを、簡単に説明していきます。



<現行の法律による欠格事由>


看護婦・士や准看護婦・士などは、
養成所を卒業し、国家試験・資格試験に合格したあと、登録することによって、
免許が与えられることになります。

ところが、試験に合格しても、免許が与えられないという、
欠格事由というものがあります。

これらのことは、
いわゆる、保助看法(=保健婦助産婦看護婦法)に規定されています。

絶対的欠格事由相対的欠格事由の2種類があるのですが、

こういう状態の人には、絶対に免許が与えられないというのが、絶対的、

こういう状態の人には、場合によっては免許が与えられないというのが、相対的ということです。


絶対的欠格事由については、以下のようになっています。

目が見えない者、耳が聞こえない者又は口がきけない者には、保健婦、助産婦、看護婦又は准看護婦の免許を与えない。

これは、その条件にあてはまる場合には、絶対に免許が与えられないということです。

これらも、その状態が解消されれば、問題はないのですが、その可能性は、低いもののように考えられているようです。


相対的欠格事由というのは、

@罰金以上の刑に処せられた者、

A刑に処せられなくとも保健婦・助産婦・看護婦・准看護婦の業務に関して犯罪や不正行為があった者

B素行の著しく不良な者、

C精神病者、麻薬、大麻、あへん中毒者、伝染病の疾患にかかっている者、


については、場合によっては、免許が与えられないことがあるということです。


これは、その条件にあてはまっても、免許が与えられることもあれば、与えられないこともある。
そう解釈することができます。

また、その状態が、必ずしも永続的ではないと考えられているようで、その状態が、解消されれば、当然、免許が与えられることに支障はないと思われます。


※以上のことは、あくまで、「現時点」での話しです。
 


<欠格事由の見直し>


平成11年に、政府の障害者施策推進本部というところで、
「障害者に係る欠格条項の見直しについて」
という決定がなされました。
(めどとしては、平成14年度末までに、ということになっていますが、あくまで、めどということです。)

この決定をうけて、
医療関係者審議会医師部会、歯科医師部会及び保健婦助産婦看護婦部会合同部会は、以下のような結論を出しました。
(これは、最終的な法律の改正案ということではありませんが、法律が改正される際には、盛り込まれる可能性が高い、と考えられます。)

障害を特定した欠格事由である、
「目が見えない者」「耳が聞こえない者」「口がきけない者」及び「精神病者」
の条項は廃止し、障害を特定しない相対的欠格事由に改める


:簡単に説明すると、
 障害を理由に、一律に門戸を閉ざすのではなく、業務の遂行が可能かどうかで、決める、ということのようです。
(※具体的なことについては、後述の「改正試案」の項を、ご覧ください。)

また、その他の欠格事由についても、
「素行が著しく不良な者」「伝染性の疾病にかかっている者」についても削除すべき
となっています。

「素行が著しく不良な者」を、なぜ削除すべきなのかというと、
現実には、「素行が著しく不良な者」というのが、相対的欠格事由の一つである「罰金以上の刑に処せられた者」と、ほぼイコールということになっているんですよね。
それで、「罰金以上・・・」のほうが、あれば、それで足りる、ということのようです。

一方の「伝染性の疾病にかかっている者」については、
・この規定が制定された頃に比べて、治療法や感染予防策などが格段に進歩している
・患者への二次感染の予防は、本人も含めた職場で解決すべき問題である
・感染者の人権にも配慮する
等の理由によるようです。



その後、厚生労働省から、関連法の「改正試案」が発表されました。
(※あくまで、「試案」ということです。)

それによれば、相対的欠格事由については、(看護関連にしぼって書きますが)
「心身の障害により、看護婦・士、准看護婦・士の業務を適性に行うことができない者として厚生労働省令で定めるものに、該当する者には、免許を与えないことがある。」
のようになるようです。

さらに、
厚生労働省令で定める者というのは、
「視覚、聴覚、音声若しくは言語又は精神の機能の障害により、看護業務を適性に行うに当たって必要な認知、判断、及び意思疎通を適切に行うことができない者とする」
ということのようです。

で、相対的欠格事由に該当するかどうかの具体的な判断方法、ということについては、

修業課程において必須又は履修が求められている臨床実習を修了したことが確認できた申請者について、
・障害に係る身体の機能を用いて行う必要がある典型的な項目を履修したかどうか
・履修した場合には、どのような補助手段を用いて履修したか

を特定した上で、
・その補助手段が、現在の科学技術水準、一般的な医療水準から見て、普遍的かつ実用的と判断される範囲のものであれば、資格を取得できることとする。

要は、
臨床実習(病院実習など)を、こなせたかどうか、
→その中で、障害が大きく影響する項目を履修したかどうか、
→その際に、どのような補助手段(器具)を使ったのか、
→その補助手段(器具)は、同じような障害を持った他の人にも、入手可能で、使いこなしもできるものかどうか

ということがクリアできるかどうか、にかかっている、というように解釈できるように思います。



<最 後 に>


以上のようなことから、
障害を持っていても、病気を抱えていても、
それだけを理由に、門戸が閉ざされる、ということはなくなっていくはずです。

ただ、資格取得、さらに、現場で働く、ということを、現実のものにするためには、いくつか、まだ、クリアしなければならないことが残っているように思います。
(※ここから先は、個人的な考えが、かなり、含まれています。)

・学校(養成機関)や病院(勤務先)などの受入態勢
・個々の障害や病気によるハンデを克服していく工夫や努力
ということです。

例えば、車椅子を使っている方であれば、
(厚生労働省令の該当する者には、あたらないのですが、)
移動に支障がないかどうか、というのは、かなり大きな要因になると思います。
場合によっては、建物の改良なども必要になるかもしれなかったりもします。

ちなみに、病院においては、いわゆる大部屋の場合には、
ベッドとベッドの間が狭く、車椅子では、そういうスペースへ入っていきづらい、ということも考えられます。

また、実習や実際の業務においても、
患者さんの体位変換(車椅子への移乗なども含めて)等で、
困難な状況になることも考えられます。


聴覚に、障害がある方であれば、
授業で、先生が話していること、
カンファレンスなど会議のような状況での、飛び交う会話、
そういうものを聞き取る、対応するという中で、難しいこともあるかもしれません。

また、看護業務の中でも、聴覚を中心に使うものというのもあります。
聴診器を使っての作業というのは、その代表例だと思います。
(障害に係る身体の機能を用いて行う必要がある典型的な項目、ということです。)


視覚に、障害がある方であれば、
教科書や資料などが、そのままでは、使用できない場合も出てくると思います。
(特に、写真や図表などは、読み上げとかも、難しいですし・・・。)

また、これは、障害の程度によっても変わってくることですが、
手書きの記録をしなければならない場合に、どうするのか、ということも、問題になるかもしれません。

さらに、実技においては、教員のデモンストレーションなどを見て学ぶ、という要素も大きなものがあります。


以上に、あげたことは、あくまで、ごく一部のことで、この他にも、いろいろと出てくるとは思います。


でも、こういうことは、克服できない、ということでもないような気もします。
(時間や、かなりの費用が必要な場合には、技術的には可能でも、現実的には難しい、というようなこともあったりするでしょうが。)


例をいくつか、あげてみると、

・聴診器については、
 音を増幅する装置(アンプ)がついた聴診器
 補聴器をしたままでも使える聴診器
 音を、波形など目に見える形に変換できる装置のついた聴診器
 などがあります。

 国内では入手が難しいものもあるとは思いますが、自分が調べた範囲でも、ネット通販(主にアメリカのサイトで)されていたりします。

・視覚に障害がある人への教材については、
 現状でも、はり、きゅう、あんま、などを教えている学校には、視覚に障害を持っている方が多く学んでいるわけです。
 当然、医療的な知識も必要になりますから、そのための教材も準備されています。
 そういうものの中で、看護学校においても使えるようなものも、多くあるように思います。
 これらを活用することを考えてもいいのでは、という気がします。

・視覚に障害がある人へ技術を伝える
 これは、「見ればわかります」という、(普段、あまり意識していないのですが、)よく使っている教え方が、使えなかったりします。
 そういう場合には、当HPの違うコーナーでも紹介していますが、「視覚障害リハビリテーションワーカー」との連携ということを、おこなっていけば、いいのではないかという気がします。
(※技術的なことだけでなく、パソコンの使い方や、学校や病院内の移動の仕方など、さまざまな場面のことを考えると、余計そう思いますが・・・。)



<結 び>
当面は、個別に、学校や病院などと協議をしながら、進めていく、などということが、かなり必要なのかなという気がします。
ただ、そのことが、後から続いてくる方への道を切り開いていくことにもなると思いますので、「自分のためだけのこと」ではない、という気持ちを持っていて欲しいとも思います。

微力ではありますが、当ホームページも、道を切り開いていく方を、応援していきます。

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